研究実績の概要 |
本研究の目的は、「主観的幸福度」を用いて、社会保障制度が受益者の厚生に与える影響を推定することである。当該年度の研究実績は具体的に以下の2点である。(1)東日本大震災の被災者の個票データを用いて、どのような人々の主観的幸福度が変化しているのか、また、どのような被災者支援が被災者の主観的幸福度に影響を与えているか計量的に分析をした。被災者支援は、家族や親族、友人といったプライベートなネットワークから受ける支援と、公的な支援に分けて、さらにそれぞれ具体的な支援方法に分類して、その効果を計ることを試みた。この研究により、自宅の倒壊被害が大きい場合、被災者の主観的幸福度に統計的優位な負の影響があり、私的公的支援で金銭的な支援を受けた場合でもその影響は小さくなっていないことを明らかにした。本研究は国際学会で発表し、それをふまえて国際学術雑誌投稿に向けて準備を進めているところである。(2)介護保険制度が家族介護者の介護時間や労働時間、そして主観的幸福度に与える影響の分析を進めている。当該年度は、世界で初めて公的な介護保険制度が作られたオランダの介護保険制度の現状と歴史をまとめた。その際、ヨーロッパの中高齢者パネルデータの「The Survey of Health, Aging and Retirement in Europe (SHARE)」を用いて、オランダの高齢者の健康状態や介護の実態も明らかにした。この研究成果は令和元年に著書として出版予定である。(3)遺産の受け取りが高齢者の経済状況に与える影響について、日本の個票パネルデータ「くらしと健康の調査(JSTAR)」を用いて明らかにした。それによると、遺産の受け取りという一時的な所得の増加があった場合、人々は耐久財消費を統計的優位に増加させることを明らかにした。この研究成果は論文としてまとめ、令和元年に公表される。
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