本研究課題は従業員との契約に際して経営者がどのような利益を報告するのかについて検討することを目的としている。本研究課題の研究は、①個別の会計項目である減損会計に焦点をあてた研究、および、②より総計的な指標である異常会計発生高/保守主義に焦点をあてた研究の2つに大別される。2016年度は、2015年度に研究を行った①減損会計に焦点をあてた研究を改定するとともに、②総計的な指標に焦点をあてた研究を重点的に進めた。 ①減損会計に焦点をあてた研究では、規模の大きな減損損失を計上した企業のうち、従業員の影響力が強い場合には人員削減が生じにくいことを発見した。さらに、人員削減を実施した企業のうち、従業員の影響力が強い場合には人員削減が行われる前の会計期間あるいは実施した会計期間に減損損失が計上されやすくなることを発見した。これらの発見事項は、従業員の影響力によって企業行動や会計行動が異なることを示唆している。 ②総計的な指標に焦点をあてた研究では、子会社も含めてグループ企業すべてが日本に位置する企業を対象に分析を行い、人員削減を実施した企業が実施した会計期間に保守的な会計報告を行うことを発見した。しかしながら、そのような企業が人員削減実施前後に負の異常発生高を計上しているとする証拠を発見することはできなかった。これらの検証結果は人員削減実施企業が機会主義的な行動を行っているわけではなく、実態を伝達するような会計行動を行っていることを示唆している。 ①減損会計に焦点をあてた研究および②総計的な指標に焦点をあてた研究は国際学会および国内学会で発表するとともに、神戸大学経済経営研究所ディスカッション・ペーパーとして公表し、成果を発信している。
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