核磁気共鳴(NMR)は、多くの分野で利用されている手法であるが、十分な感度を得るためには数mgから数十mg程度の試料を必要とする。本研究ではNMRの信号強度を飛躍的に増強させるために、電子スピンの偏極度(核スピンの約1000倍)を核スピンに移行する動的核偏極(DNP)と、マイクロカンチレバーを用いた機械的検出法を組み合わせることを目指した。 27年度はNMR測定システムを構築した。まずは、現有の4テスラ超伝導マグネットに挿入して用いる低温測定プローブを設計・製作した。試料スペース部分は、RF波照射用のマイクロコイル、マイクロカンチレバー、勾配磁石、変位検出用のファブリー・ペロー干渉計を設置した。力検出NMRでは、共鳴周波数付近でRF波を掃引することで、核スピンの向きをカンチレバーの振動の周期に合わせて断熱的に変化させ、これによる縦磁化成分の変化を検出する(rapid passage法)。そこで、RF回路の周波数変調制御用にPXIコントローラシステムを導入した。 このシステムを用いて、passage法を用いたNMR測定を開始した。試料としては核スピンの緩和時間が比較的長い硝酸アンモニウムやフッ化カルシウム等を用いたが、現段階では観測に至っていない。その原因としては、カンチレバーの共振周波数が高く、スピンの向きの断熱的な変化が起こっていないと考えられる。マイクロカンチレバーをより低いばね定数を持つものに変更することによってこの問題は解決される。 加えて、動的核偏極を起こすために、ミリ波回路の改良も進めた結果、従来の機械的ESR検出の最高周波数であった370 GHzを三倍更新する、1.1THzまでのESR観測に成功した。これは、機械検出ESRの高スペクトル分解能化、適用物質の拡大に貢献する成果である。
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