研究実績の概要 |
ヘリコバクターピロリ菌の一部は、cagPAIと呼ばれる約40,000塩基の外来性遺伝子群を有しており、同領域を保有するピロリ菌は病原性が高く、悪性化能が強い。cagPAI領域の最下流に存在するcagA遺伝子は最も重要な癌関連遺伝子である。cagA遺伝子からなるCagAタンパク質は、約1,200個のアミノ酸から構成され、C 末端領域には特徴的なアミノ酸配列が存在し、EPIYA繰り返し配列と呼称される。この配列は、欧米諸国に多い西欧型(EPIYA-C)と、我が国に多い東アジア型(EPIYA-D)に分類される。とりわけEPIYA-Dを持つ菌は、萎縮性胃炎の進展と胃癌の発生に密接に関与する。申請者は、次世代シーケンサーを用いたcagPAI領域とcagA遺伝子の詳細なディープシーケンスにより、癌化タンパク質CagAに関わる未知な悪性遺伝子変異を解明し得ると考えた。臨床分離ピロリ菌として、日本株(神戸、沖縄、福井)と海外株(ベトナム)、標準菌株であるATCC26695 とJ99の計24株は、シーケンスが終了した。これら菌株は、CagA分子多型別に、EPIYA-D群(東アジア型)20株とnon-EPIYA-D群(非東アジア型)4株に分類した。参照配列に対して、EPIYA-D群20株において、57個の共通した一塩基多型と36個のアミノ酸変異を認めた。そのうち、18個(50%)のアミノ酸変化は、ヒト細胞内膜と静電気的に結合するドメインⅡ領域に多く存在することを明らかにした。また、EPIYA繰り返し配列が存在するC末領域には、11個(30.6%)の共通アミノ酸変異が存在し、2種類の変異(Ile1065ThrとThr1151Met)は、EPIYA-D群20株全てにおいて存在していた。
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