研究課題/領域番号 |
15H06407
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中前 佳那子 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 特任助教 (20757231)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 金属‐金属結合 / パラジウム / 多座ホスフィン / 単分子素子 |
研究実績の概要 |
本研究では直鎖型四座ホスフィン bis[(diphenylphosphinomethyl)phenylphosphino]methane (meso-, rac-dpmppm)を用いて構造規制した直鎖状パラジウム8核錯体 [Pd8(dpmppm)4](BF4)4 (1)の両末端が配位不飽和である特徴を活かし、2分子の金属鎖末端間を金属-金属結合で還元的カップリングさせてPd16核長鎖を有する分子性クラスターの創製を第一の目的に設定した。絶縁体である有機配位子で取り囲まれたこのようなPd16核鎖は、鎖長が約6 nm にも達する単一の分子であるため、低原子価金属イオンが一次元に配列した現実的に利用可能なナノサイズの分子細線である。まず、直鎖状Pd8核錯体を還元して金属鎖骨格内の電子状態を緻密に制御しPd16核錯体への二量化を検討したところ,コバルトセンによる試薬還元から、電子吸収スペクトルにおいてPd8核錯体に特徴的な900 nmの吸収が消失して新たに1201 nmに吸収がみられた。しかし、1201 nmの吸収強度は徐々に低下して安定な化合物として単離できず、今後は還元の程度を調整する必要がある。また、複数の金属鎖を金属-金属結合で直接連結する方法とは別に,軸配位子として導入した有機連結基を介する方法から超構造の構築を検討した。具体的に、パラの位置関係に二つの配位点を有するビスイソシアニド類(p-(CN)2C6H4, p-(CN)2C6Me4, p-[(CN)C6H2Me2]2)を錯体1に等量反応させたところ,Pd8核ユニットがLで1次元に連結することが明らかとなった。さらに過剰量のLが存在すると,Pd4核ユニットへと開裂してLで架橋された1次元ポリマー構造へと変化し,また温度を低下させると金属鎖間を連結するLにより2次元へと拡張された構造をとっているものと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
直鎖状Pd8核錯体をコバルトセンで還元すると、電子吸収スペクトルにおいてこれまでで最も長波長の1201 nm に吸収が観測されるも安定な化合物として単離することができておらず、本研究にて第一の目標に設定したPd16核長鎖を有する分子性クラスターの創製に至っていない。今後は定電位電解を行い、より緻密に金属骨格内の電子数を変化させることでPd8核錯体の自己集合を誘起し、生成したPd16核構造内での電子状態の安定化をはかる。
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今後の研究の推進方策 |
Pd16核長鎖を有する分子性クラスターの合成検討を続けるとともに、既に合成している直鎖状Pd8核錯体を用いてアンカー分子の導入を検討し、単一分子に由来する電気伝導性を測定する。さらに、Pd8核錯体は4電子酸化されることでPd4核鎖に解離することから、鎖構造の開裂を利用することで自在なスイッチング機能を付与できるかについて検討する。また、Pd8核錯体1をプロトンで酸化するとPd4核ヒドリド錯体 [Pd4H(dpmppm)2](BF4)3 に変換し、過剰量のプロトン存在下ではPd4核ヒドリド錯体を活性種とする触媒的な水素発生が可能であることから、水素発生を伴う新たな分子ロッドの開発へと研究を展開する。
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