本申請研究では,植物免疫における鍵因子がウイルスによって転用される機構を明らかにすることで,ウイルス誘導性免疫不全の実態に迫ることを目的としている.本目的の達成のために,red clover necrotic mosaic virus (以下,RCNMV)をモデルウイルスとして計画を進めた. 平成28年度に行った解析から,RCNMV感染はフラジェリンエピトープ(flg22)誘導性MAPキナーゼ活性化を抑制する一方で,キチン誘導性MAPキナーゼ活性化を促進することが明らかとなった.また,平成27年度より着目しているカルシウム依存性タンパク質キナーゼ(以下,CDPKiso2)は,RBOHBおよびRCNMV複製酵素タンパク質p27と三者複合体を形成し,p27誘導性ROSバーストにおいて必須の宿主因子であることが明らかとなった.興味深いことに,CDPKiso2はflg22誘導性MAPキナーゼ活性化に対して負に,キチン誘導性MAPキナーゼ活性化に対して正に作用することが明らかとなった.以上の結果は,CDPKiso2がRCNMV感染時に見られる免疫撹乱のハブ因子として機能することを示唆する. さらに,p27誘導性ROSバーストに関わる宿主因子のさらなる探索を行い,3量体Gタンパク質βサブユニット(以下,Gβ)を同定した.GβのRCNMV複製における機能解析から,GβはCDPKiso2と同様に,RBOHB・p27と相互作用し,RCNMV増殖に重要な役割を持つ宿主因子であることがわかった.また,Gβはp27によってウイルス複製の場である核近傍の小胞体膜由来アグリゲート構造へリクルートされることが共焦点顕微鏡を用いた観察から明らかとなった.以上の結果から,CDPKiso2に加えて,GβもRCNMV感染時に見られる免疫撹乱において何らかの役割を担っている可能性が浮上した.
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