本研究では、植物の複合ストレスを軽減することができる有用元素「ケイ素」の吸収を担うケイ酸輸送体Lsi1の発現制御機構を解することを目的とした。具体的には、前年度までに作出したPromoter deletion line を用いた解析により、Lsi1の転写量の調節に関わるシス配列候補領域を転写開始点より上流-327から-292までに絞り込むことができた。 mRNAの発現量の調節が何によって決定されているかを調べるために、地上部のケイ素集積量と根におけるLsi1の発現量の相関を調べた。その結果地上部のケイ素集積量と発現量には高い負の相関がみられた。また、地上部のケイ素集積量が野生型と比較し顕著に低い変異体を用い、ケイ素処理条件の違いによる発現量の違いをReal-time PCRにより定量した結果からも地上部のケイ素の集積量が根での発現量の調節に大きく寄与していることが示された。さらに、根分け法により、片側の根をケイ酸を含む溶液で、もう片側の根をケイ酸無添加の溶液で処理し、Lsi1の発現量を調べた結果、片側の根をケイ酸処理した場合、もう片側の処理していない根でもLsi1の発現量の低下が見られた。以上の結果から、根におけるケイ酸輸送体の発現は根圏のケイ酸濃度ではなく地上部のケイ素集積量によって調節され、地上部からの何らかのシグナルがLsi1の発現量の調節に関与していることが示唆された。なお、これまでの結果は論文としてまとめ、国内学会においてもポスター発表を行った。現在はケイ素の集積を根へと伝える地上部からのシグナルの正体を突き止めるために、RNA-seq解析を行い、そのデータの解析を行っている。
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