研究課題
PRIP(PLC-related catalytically inactive protein)は、タンパク質脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼと複合体を形成し細胞機能を調節している分子である。平成27年度の研究において、PRIPノックアウト(Prip-KO)マウスを用いた実験で、サーモニュートラルな環境下(30℃)または寒冷条件下(4℃)での飼育で、野生型のマウスよりPrip-KOマウスで、褐色脂肪組織の脱共益タンパク質1(UCP1:熱産生タンパク質)の遺伝子とタンパク質の発現量が、有意に増加していることが示された。さらに、初代培養褐色脂肪細胞のβアドレナリン受容体刺激実験で、UCP1の遺伝子とタンパク質発現量はPrip-KOマウスで有意に増加していた。また、ホルモン感受性リパーゼや脂肪滴表面タンパク質ペリリピンのリン酸化レベルも亢進している事より、Prip-KOマウスの褐色脂肪細胞では、脂肪分解による脂肪酸の産生亢進が、UCP1の活性化やPPARα(熱産生関連遺伝子)などの発現上昇を引き起していると結論づけ、この結果を雑誌に投稿した。また、寒冷刺激やノルアドレナリン刺激による熱産生には褐色脂肪細胞だけではなく白色脂肪組織内から分化する褐色脂肪組織様細胞(ベージュ細胞)による働きも大きく影響している。そこで、Prip-KOマウスの白色脂肪組織から単離した前駆脂肪細胞を分離培養し、分化誘導をかけて褐色化を起こし、褐色化や熱産生能にPRIPが影響しているかどうか調べることとした。Prip-KOマウスの白色脂肪組織から単離した前駆脂肪細胞の褐色化は野生型マウスより単離したものと同程度であった。しかし、褐色化したベージュ細胞のβアドレナリン受容体刺激によるUCP1などの熱産生関連遺伝子やタンパク質の発現量はPrip-KOマウスのベージュ細胞で有意に上昇していた。
3: やや遅れている
Prip-KOマウスの褐色脂肪細胞では、細胞内での脂肪分解による脂肪酸の産生亢進が、UCP1の活性化やPPARα(熱産生関連遺伝子)などの発現上昇を引き起していることが実験により示された。しかし、一方で褐色脂肪細胞のUCP1の発現調節には、PKAによるCREBやp38-MAPKのリン酸化が関与する事が知られる。PRIPとprotein phosphatase複合体は、HSLやperilipinの脱リン酸化を制御したが、CREBやp38-MAPKの脱リン酸化を調節しているかは依然不明のままである。また、ベージュ細胞の分化誘導やエネルギー消費の分子メカニズムにPRIPがその調節にどのように関与しているかに関してもまだ解明できていないので、今後の実験で明らかにしていきたい。
褐色脂肪細胞のUCP1の遺伝子発現調節におけるPKAを介したCREBやp38-MAPKのリン酸化の制御にPRIPが関与しているかどうか調べる。i)Prip-KOマウスから単離培養した褐色脂肪細胞を用いて、アドレナリン受容体刺激によるCREBやp38-MAPKのリン酸化の違いを野性型と比較する。この実験は、リン酸化認識抗体を用いてウエスタンブロット解析で検討する。さらに、その下流でUCP1の転写因子Atf2やPGC1αのリン酸化レベルもPrip-KO細胞と野生型細胞で比較検討する。ii)Prip-KOマウスの褐色脂肪細胞では、UCP1の遺伝子発現を調節するPPARα、PGC1α遺伝子発現がアドレナリン受容体刺激後に有意に亢進した。アドレナリン刺激とPPARαのアンタゴニスト(GW6471)を組み合わせて、PGC1αやUCP1遺伝子発現に与える影響を検討し、PRIPが仲介するUCP1の発現制御がCREBやp38-MAPKによる活性化経路か脂肪酸増加に依存する活性化経路なのかを検討する。白色脂肪組織でのアドレナリン受容体刺激誘導性に起こる褐色(Brite)化へのPRIP分子の関与についてさらに検討する。i)Prip-KOと野生型マウスを寒冷環境下で飼育し、鼠径部の皮下白色脂肪組織における褐色化を、分化誘導の遺伝子マーカーの発現変化を定量的リアルタイムPCR法で検討する。ii)Prip-KOと野生型マウスの皮下白色脂肪組織から単離した前駆細胞を分離培養する。そして、アドレナリン刺激によるUCP1や褐色化の分化誘導遺伝子マーカーの発現量変化を定量的リアルタイムPCR法にて解析する。野生型と異なる発現変化を示す分子を過剰発現したり、遺伝子ノックダウンしたりしてPRIP分子の下流で白色脂肪組織の褐色化に関与するか検討する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 2件)
The Journal of Biological Chemistry
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