研究実績の概要 |
PRIP(PLC-related catalytically inactive protein)は、Ins(1,4,5)P3結合性タンパク質として発見された分子で、プロテインホスファターゼと複合体を形成し細胞機能を調節している。 平成28年度の研究において、Prip-KOマウスを用いて生体のエネルギー恒常性の維持における分子メカニズムの解明を行った。個体における脂肪代謝が変動しているかを調べるために、血液中の総トリグリセリド濃度(TG)を測定した。野生型マウスに比べてPrip-KOマウスでTGは高く、VLDLやLDL分画でのTGが高値を示すことが分かった。しかしながら、Prip-KOマウスは血糖値の異常や耐糖能異常を示さなかった。また、寒冷環境下(4 ℃)において、野生型マウスとPrip-KOマウスの摂餌量は同程度であったが、直腸温はPrip-KOマウスで有意に高かった。この結果に一致して、褐色脂肪組織におけるuncoupling protein1(UCP1)のタンパク質発現の亢進が見られ、また皮下の白色脂肪組織においてもUCP1発現量が亢進していた。寒冷刺激やノルアドレナリン刺激による熱産生には褐色脂肪細胞だけではなく白色脂肪組織内から分化する褐色脂肪組織様細胞(ベージュ細胞)による働きも大きく影響している。そこで、Prip-KOマウスの白色脂肪組織から単離した前駆脂肪細胞を分離培養し、分化誘導をかけて褐色化を起こしてβアドレナリン刺激によるPRIPの影響を調べた。UCP1などの熱産生関連遺伝子やタンパク質の発現量はPrip-KOマウスのベージュ細胞で有意に上昇していた。PRIP遺伝子を欠損させることで褐色脂肪細胞の非ふるえ熱産生亢進のみならず白色脂肪組織から分化するベージュ細胞でのエネルギー消費が亢進することが明らかとなった。これらの結果を、学術雑誌や学会などで発表した。
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