血中リンは腸管や腎臓での調節によりその恒常性は保たれ、腎臓からのリン排泄を促進するホルモンが副甲状腺ホルモン (PTH) である。しかし、慢性腎臓病 (CKD) で見られる腎臓でのリン調節機構の破綻による長期の高リン血症状態は、二次性副甲状腺機能亢進症による骨からのリン放出の増大により血管石灰化を引き起こし、CKDに伴う骨ミネラル代謝異常 (CKD-MBD)を発症する危険性が高まる。そこで、本研究はリン摂取によるPTH初期分泌機構およびそのCKD-MBDにおける意義を解明することを目指す。 昨年度の結果では、ラットにリン酸水溶液を胃内投与すると、血中PTH濃度は高濃度のリン酸水溶液を投与した群で上昇し、PTH分泌に二相性が見られた。次に、迷走神経遮断すると高リンによるPTH分泌二相性のうち初期分泌は消失した。 本年度は、副甲状腺を支配する神経の影響を検討するために、交感神経および副交感神経を遮断しPTH初期分泌を検討した。交感神経遮断群および副交感神経遮断群ともに、リン酸投与後5分で血中PTH濃度、血中リン濃度ともに有意な上昇を認めたが遮断薬による影響は見られなかった。次に、腸管でのリン吸収のPTH初期分泌への影響を検討するために、ホスホノギ酸を用いて腸管でのリン吸収を阻害した結果、リン酸水溶液の胃内投与によるPTH初期分泌は消失した。さらに、PTH初期分泌は腎臓のリン酸再吸収を行うトランスポーターであるNpt2aタンパク質発現量に影響すると考え、PTH初期分泌の腎臓への作用を検討した。その結果、リン酸投与によりNpt2aタンパク質発現量が低下し、迷走神経求心路遮断によりその低下が消失した。以上より、PTH初期分泌は腸管でリンを感知して迷走神経求心路を介して中枢神経へシグナル伝達、さらに中枢神経からの副甲状腺支配により腎臓のNpt2aタンパク質発現量に影響すると考えられた。
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