今年度はまず、Esrrbノックアウトマウスにおける始原生殖細胞(PGC)の発生分化に着目して表現形解析を行なった。抗AP2-gamma抗体を用いて着床後胚(7.75日胚)の免疫染色を行ないPGC数をカウントしたところ、ホモホックアウトマウスでは野生型と比較して有意に数が減少していることが明らかになった。前年度の解析において我々は、着床後胚、および、栄養膜幹細胞においてEsrrbがBmp4遺伝子の上流因子であることを見出しており、Bmp4遺伝子の発現抑制がPGC数の減少の原因であることが強く示唆された。 次に、前年度に樹立したEsrrb結合性Bmp4エンハンサーノックアウトマウスの表現形解析を行なった。まず、ホモノックアウトマウスの着床後胚におけるBmp4発現量をReal time PCR法によって解析したところ、野生型と比較して有意に減少していることが明らかになった。従って、同定したエンハンサーは生体内においてBmp4遺伝子発現制御を担うことが示された。Bmp4タンパク質は発生段階のあらゆる局面で重要な因子であるが、エンハンサーホモノックアウトマウスは各発生過程で外見上の異常は認められず、正常に出生され成獣まで成長した。しかし、ホモノックアウトマウスの雄は交尾能力はあるものの、不妊傾向の表現型を呈することが明らかになった。また、精巣重量は野生型と比較して有意に減少しており、完全不妊の個体について精巣組織切片を作製したところ精子細胞がほとんど認められなかった。精子の欠乏がPGCの発生分化異常に起因するか確認するため、着床後胚のPGC数を免疫染色法によってカウントしたところ、有意に減少していることが確認された。 以上の結果から、着床後胚の胚体外外胚葉においてEsrrbは、Bmp4遺伝子の直接的発現制御を介して、胚体における生殖細胞の分化制御を担うことが明らかになった。
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