本研究の目的は,日本に生まれ育ち定住する外国人子女が急増している状況の中で,社会の変化に対応した新たな教材開発を行い,以てグローバル化,少子高齢・人口減少社会の進展下における学習者の市民的思想形成及び社会的構想力の育成に資することを目的とするものである。 2年間の研究期間において,主に次のような調査・研究を行った。(1)外国人子女に関する教育問題の全般的状況を把握するため,調査対象地域を外国人労働者が集住する静岡県浜松市・磐田市,群馬県大泉町とし,教育委員会,国際交流協会,外国人支援団体等で聞き取り調査を行った。(2)浜松市立高等学校インターナショナルクラスに通う外国人子女の学習状況や進路等について,担当教員及び生徒から聞き取り調査を行った。(3)高校入試における外国籍生徒の優遇措置(アファーマティブ・アクション)を題材とする教材開発を行い,香川大学教育学部附属高松中学校で授業実践・分析を行った。(4)浜松市内の中学校社会科担当教員を対象に,外国人子女の教育に関するアンケート調査を実施した。 とくに教材開発では,外国人子女の教育や進路等に関する実態調査に基づき,外国人入店拒否訴訟や外国人子女への優遇措置に関する仮想裁判を題材として,葛藤を通した多文化共生観・社会的統合観の育成をめざす授業モデルを示した。教材開発と授業実践・分析を通して,①外国人子女が様々な面で不利な立場に置かれており,そのことが彼らの進路を塞ぎ,貧困の再生産と社会の階層化をもたらす一因となっているという事実認識の獲得,②葛藤を通した多文化共生観・社会的統合観の萌芽的形成,などの成果が見られた。以上,基礎調査に基づく教材開発を行い,授業実践を通してその有効性を検証し,多文化共生観の育成をめざす教材開発の新たな方向性を示した点に,本研究の意義があるといえよう。
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