RNAの2次構造は主にステム構造とループ構造の組み合わせからなる.これらの構造のうち,最小のエネルギーを持つ構造の組み合わせが実現されると考えられており,動的計画法を基にした様々な構造予測アルゴリズムが提唱されている.ところがこれらの2次構造に加えて擬ノット構造を取り入れると,これらの構造予測アルゴリズムが計算が困難となる.より効果的に擬ノット構造を取り入れた予測アルゴリズムの改善に向けて,RNAの「形」の新たな幾何学的特徴づけを与えることは,予測問題の改善へ向けた一つの方針であると考えられる. 本年度の研究では,主にRNA行列模型の構築とその拡張にフォーカスを絞り,研究を進めた.昨年度の研究で,様々なバージョンのRNA行列模型を構築し,それぞれの模型の解析を進めてきた.これらの研究の進展を踏まえ,本年度はそれらの模型を統一するより一般的な模型を構築することに成功した.ここで得られた統一模型の最大の特色は,我々の研究で提唱したBoundary length and point spectrum (以下BLPスペクトルと略)を取り込むことにより,RNAのエネルギー関数を意図した幾何とトポロジー構造の特徴づけを可能とするモデルとなっている点にある. このBLPスペクトルは,ファットグラフとして表現されたRNAに対して,塩基対やループ構造の情報を保持した組み合わせ論的データである.この組み合わせ的データは,2次構造予測に用いられてきたエネルギー関数を指定するために必要なデータであり,さらに擬ノット構造が含まれる場合にも拡張可能なデータセットとなっている.本年度の研究で構築したRNA行列模型は,これらのデータセットを固定した時に幾つの可能な「形」があり得るかを数えるRNAの数理的トイモデルとなっている.将来的には,このモデルを基により現実的で計算可能なモデルを構築できると期待する.
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