他者の顔や視線方向を知覚する機能は他者との円滑なコミュニケーションを行う上で重要な役割を果たす。本研究ではこのような視機能が発達初期にどのような特性を備えているか乳児を対象として検討した。日常の視環境では光の加減や視対象との距離などにより、対象の見易さは様々に変化する。 昨年度に引き続き、このような顔の視認性の変化が乳児の視線方向知覚にどのように影響するか生後4-6ヶ月児を対象として検討した。3DCGを用いて作成された顔の向きが同一で視線方向のみが異なる画像対を用いて乳児の画像注視時間を検討した。 その結果、乳児は目領域の明暗コントラスト差が大きく瞳の位置情報が明確な確実条件では直視視線の顔画像を選好注視することが示された。一方で、画像ノイズを付与することで目領域のコントラスト差が低減された不確実条件では、この選好注視が消失することが示された。 不確実条件での瞳領域の明暗差は乳児期のコントラスト感受性に関する先行研究に基づき対象月齢でのコントラスト閾より高い値で複数条件を設定された。しかしながら、本研究で設定したいづれの不確実条件においても視線選好は生じなかった。成人を対象とした研究では、不確実状況では他者の視線方向が観察者を「直視」する方向へと偏って知覚されることが報告されているが、乳児においては同様の知覚上の視線方向の偏りを示す証拠は得られなかった。これらの結果から、目領域のコントラストのわずかな低下によって乳児の視線識別が阻害されることが明らかにされた。
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