本年度の研究は,バイアウトファンドによる資金調達が金融市場へ与える影響を解明するため,金融機関による寡占競争を分析する理論的枠組みの構築を目的としていた.それにより,金融市場の望ましい制度設計の理論的示唆という貢献が得られる.そうした金融市場の考察に先立つ研究として,不確実性を伴う寡占市場に関する研究を進め,成果を得ている. 具体的には,寡占市場における先駆的な事業者のマーケットパワーに関する経済分析として,市場参入のタイミングと,その市場における収益性の予測の精度,及び競争相手となる他事業者の数という,3つの要素に着目し,他の事業者に先駆けた参入が市場競争において有利に働くような市場環境について考察を行った.得られた結果は,他の事業者に先駆けた市場参入が有利に働くためには,競争相手となる事業者が多く競争圧力が大きいこと,及び収益性に関する予測が必要以上に正確でないこと,という条件が市場環境に必要であるという結果を得ている. 本結果は,中村友哉氏との共著論文 "Expected profits in Stackelberg competition with private information" としてまとめている.この論文は,2017年度前半中にワーキングペーパーとして公開し,学術雑誌への投稿準備に入る準備を進めている最中にある.また,2016年度応用経済学会秋季大会(11月26日,慶應義塾大学)で発表している.今後,以上の研究成果を土台として,バイアウトファンドに特有の性質を考慮した理論分析を進めていく予定である.
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