本年度は、前年度の『東文選』の諸版本の調査結果に基づき、その校勘を行うとともに、実際に『東文選』に収められる辞賦作品の特徴について分析考察を行った。 『東文選』の版本として、学東叢書本、慶熙出版社本、豊後佐伯藩主毛利高標献上本の3本が現状確認ができたものである。学東叢書本の解説に基づき、学東叢書本を16世紀前半の李氏朝鮮中宗・明宗間に成った活字本として、また慶熙出版社本を李氏朝鮮後期の木版本と認め、これに毛利高標献上本を加え校勘を行った。結果、慶熙出版社本と毛利高標献上本は同版木を用いた、学東叢書本の模刻本と推定され、そのため諸版本間の異同は極めて少ないことが確認された。なお、毛利高標献上本は慶熙出版社本より鮮明であり、テクストとしての価値を保持したと判断された。したがって、底本としては学東叢書本を採用しつつ、主たる参照テクストとしては毛利高標献上本を利用するのが適当であろうと判断した。 『東文選』に収録される辞賦作品については、以下の4点の特徴が確認された。すなわち、1『文選』の影響が確認できるもの、2日本との関係が確認されるもの、3律賦に属するもの、4李氏朝鮮王朝の称賛を目的としたものである。これらの特徴は、中国と日本とに挟まれた地理的状況に影響を受けたものであり、そこには中国との関連、日本との関連が相互に確認され、かつ朝鮮に固有の特徴として認められるものもある。 以上、『東文選』の定本に関する問題と、『東文選』所収辞賦作品に関する初歩的考察とにおいて、一定の成果があったと考えている。
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