本研究は、筋骨格ストレスマーカーを用いて、社会の階層化過程に伴い拡大した個人間の格差が、身体活動の多様性にどのような影響を与えたかを解明することを目的としている。 本年度は今回のプロジェクトの最終年度であったため、研究成果のまとめを見据え、主に九州(南を除く)に限定して人骨の筋骨格ストレスマーカーの調査を完了すること、考古学的なデータの収集を完了することを目的に行った。そのため、昨年度に引き続き、九州大学総合研究博物館・アジア埋蔵文化財研究センター及び比較社会文化研究院所蔵の古墳時代人骨の調査を行い、その結果、本年度で必要なデータの収集は概ね完了した。さらに、熊本大学医学部所蔵の古墳時代人骨の調査も行い、概ね完了している。熊本大学では、向野田遺跡など首長クラスの前方後円墳の調査を行うことができており、本研究において極めて重要なデータを収集することができた。 さらに、今回対象とした人骨調査のほとんどが40年以上前に行われている。そのため、発掘時の図面などの情報を把握することは極めて困難な作業であったが、地元市町村に保存されているデータや写真、過去の論文などを徹底的に収集した。そのため、被葬者像に密接に関係する考古学的なデータの復元も完了している。人骨の筋骨格ストレスマーカーのデータと考古学的な情報を合わせて、九州北部をケーススタディーとして論文にまとめている段階であり、これらの研究成果は、今後研究を東へと展開していく良い素地となることが見込まれている。 本研究の成果の一部を九州大学総合研究博物館の常設展示室で展示し、アウトリーチ活動も行っている。また、日本人類学会やポルトガルのコインブラ大学で行われた学会で研究報告を行った。
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