研究課題/領域番号 |
15H06468
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村山 美乃 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90426528)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ粒子調製 |
研究実績の概要 |
研究の第一段階として,PVP保護Ag三角形ナノプレートの調製とナノ粒子の紫外可視吸収スペクトルによるキャラクタリゼーションを行った.その際に用いた光還元法について,照射する紫外光の波長領域,強度,照射時間などの検討による最適化を行い,調製法を確立した.当初の計画では,次に六角形ナノプレートや六面体などの形状を持つナノ粒子のコロイド溶液を調製することになっていたが,さらに次の段階である触媒活性の検討に対する優位性を考慮し,計画を変更して,ナノ粒子のシリカ担体上への固定化を行った.その結果,Agでは約10 nm,さらにAuでは3 nm以下のナノ粒子をシリカ上に担持することができた.また,本研究で新規に合成したナノ粒子の前駆体であるアミノ酸錯体をXAFS, TG-DTA, TPOなどにより構造解析するとともに,ナノ粒子化の過程を詳細に調査したところ,従来用いられていた前駆体の塩化金酸と比較して,還元温度が約40℃も低いこと,配位子の官能基により担体との相互作用が異なることを明らかにした.これにより,担体の適用範囲が格段に広がり,粒子径制御の他にも触媒反応で重要となる担体効果の検討が可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は形状制御された金属ナノ粒子の調製法を確立し,調製したナノ粒子の構造を明らかにした上で,これを反応場とした触媒反応を実現しようとするものである.第一段階として,これまでに研究代表者が報告してきた手法を基本法として,Ag三角形ナノプレートのコロイド溶液を調製することに成功した.次に,調製したナノ粒子を用いて触媒反応を行ったが,コロイド溶液のままでは金属の回収,再利用,さらにはナノプレートの構造安定性が低いことが課題となった,そこで,ナノ粒子をシリカなどの担体上に固定化することで先に挙げた課題を解決することに重点を置き,研究を進めた.ここでは特に,これまで粒子径制御の難しかったシリカ担持Auナノ粒子の調製について,阻害要因である塩化物イオンを含まないアミノ酸錯体を合成し,粒子径が3 nm以下という微小化を達成した.特にAuをシリカ上に担持する手法はこれまでほとんどなく,本研究では前駆体となるAu-アミノ酸錯体の新規合成から取り組むことにより,触媒活性が発現する5 nm以下の粒子径を達成することができた.ここまでの成果を第116回触媒討論会を初めとした学会で成果発表し,さらに2件の招待講演も行った.研究計画の最終段階である触媒反応評価については,今後実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,半年間に実施した研究の成果では,特徴を持った金属ナノ粒子を担体上に固定化するという触媒調製の段階を達成した.当初計画していたコロイド溶液中での金属ナノ粒子の形状制御とは手法が異なるが,数 nmスケールに微小化した金属ナノ粒子においても,露出結晶面の特異性が発現するという期待があり,今後,本研究で調製した担持触媒でも同様に結晶形状と触媒活性の関連を明らかにすることが可能である.そこで,今後はシリカ担持AgならびにAuナノ粒子触媒の形態と触媒活性の相関についての検討を進める予定である.より実用的な観点から触媒反応を検討するとき,反応物は単一成分ではなく,混合物であることも多い.例えば,ガソリンなどの燃料中に含まれる含硫黄分子の選択的分解除去反応などがこれに該当する.世界中では未だに精製度合いの低い燃料が使用されており,硫黄分が大気汚染の原因となるだけでなく,燃焼システムの劣化も引き起こしてしまい,資源有効利用の観点からも好ましくない状況にある.AgならびにAuはSAM膜にも見られるように,固体表面上で硫黄分子との結合を形成しやすく,またその結合様式や結合力には結晶面の特異性がある.そこで,今後の触媒反応検討では,このような石油系燃料中に残留している硫黄成分の触媒的分解による選択除去に取り組む予定である.
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