細胞内へのカルシウム流入は、癌の発生や進展・転移過程において非常に重要な役割を担う。TRP(transient receptor potential)チャネルは高いカルシウム透過性を有し、その活性化により細胞の増殖・分化・細胞死など多様な生理応答を調節する。近年、TRPチャネルの活性化が、がん細胞の機能制御に関与することが報告されている。しかしながら、口腔癌の病態発生や浸潤・転移機構におけるTRPチャネルを介した機能調節は明らかにされていない。本研究では、TRPチャネルが口腔扁平上皮癌の発生および悪性化に与える影響を解析し、本チャネルをターゲットとした口腔癌の新しい診断および治療法の開発を目的とする。ヒト口腔扁平上皮癌細胞株(HSC2、HSC3、HSC4)の中で、高分化型扁平上皮癌であるHSC4にはTRPV4がmRNAおよびタンパクレベルで高く発現していた。カルシウムイメージングでは、HSC2およびHSC3と比較して顕著で持続的な細胞内カルシウム濃度上昇を認めた。また、HSC4へのTRPV4アゴニスト投与により濃度依存的に細胞死が誘導された。この細胞死はHSC2やHSC3では誘導されず、HSC4への阻害剤添加やsiRNAによる機能的ノックダウンにより抑制された。さらにHSC4へのTRPV4-siRNA導入により、細胞間接着分子であるE-cadherinやβ-cateninの局在が変化し、細胞間接着が減弱した。また細胞の遊走能が亢進する傾向があった。
|