本研究はCPU冷却用サーモサイフォンの除熱性能を,作動流体の変更,および沸騰伝熱面の変更により,飛躍的に向上させるものである.従来の作動流体である水に対し,低GWP(温暖化係数)冷媒のR1234ze(E)あるいはその構造異性体R1234ze(Z)を用いることで,蒸発器内熱伝達率がそれぞれ約2.6倍,2.0倍へ向上することを実験的に確認した.さらに,このシステムに対してLISS(Laser Interference Surface Structuring)によって濡れ性と表面粗さを高めた銅製沸騰伝熱面を採用することで,蒸発器内熱伝達率がさらにその約2倍へ向上することを確認した.SEM画像によりLISS沸騰面表面性状を確認した結果,ラメラ状の表面組織が観察された.レーザーの強烈なエネルギーによって銅表層が除去されたためであり,また残存した表層は強く酸化している.そのランダムな数ミクロンの凹凸は有効キャビティとして機能し,核沸騰を促進し得る.さらに高い濡れ性はCHFを増大させ,安定した除熱条件を拡大することに寄与し得る.このような表面では強い毛管力が作用しCHFが増大することが,水を用いた実験により確認されている.しかし,冷媒のように表面張力が水の1/10程度の液に対して有効であるかは未だ確認されていなかった.R1234ze(Z)を用いた実験では,機械加工面ではCHFが約730 kWm-2であったのに対し,LISS沸騰面では820 kWm-2へ増大する事を確認した.これにより,冷媒においても同様の効果が見込まれることが証明された.以上,従来の水と機械加工沸騰面を用いるものに対し,R1234ze(E)あるいはR1234ze(Z)とLISS沸騰面を併せ持つサーモサイフォンの総括熱抵抗は45%となり,大幅に低減した.以上の内容は学術論文2編と学会発表8件を通し公表している.
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