ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃炎や消化性潰瘍、胃癌等の発症に関与しているが、最近では消化管以外の様々な疾患に関与していることが報告され、呼吸器領域でも気管支拡張症や慢性気管支炎、肺癌等でピロリ菌に対する抗体の陽性率が高いことが報告されている。 我々はピロリ菌が産生する外毒素である空胞化毒素(vacuolating cytotoxin: VacA)に着目し、ヒトの肺組織にVacAが存在することを見出した。呼吸器系細胞や肺組織に対してVacAがどのように作用しているのかを明らかにすることで、既存の方法とは全く異なる革新的な呼吸器疾患の予防・治療法を開発することを目的とし、本研究を計画した。 我々は肺癌患者の肺由来株化細胞であるA549細胞を用いた細胞実験を行い、VacAがA549細胞を空胞化させることに加え、VacAがA549細胞からIL-8を産生させることを明らかにした。本研究ではこれに加え、VacAがA549細胞からIL-6も産生させること、VacAが正常ヒト気管支上皮細胞や正常ヒト肺線維芽細胞も同様に空胞化させること、これらの細胞からもIL-8を産生させることを示した。 また、マウスの気管内にVacAを投与し、予後や体重変化の検討や肺組織における病理学的検討を行った。しかしながら、VacAの気管投与により、マウスの予後や体重に有意な変化はなく、肺組織の病理学的検討では炎症細胞の軽度増加を認めるのみであった。マウスにおける肺組織の変化が軽微であった点は興味深く、VacAに対するマウスの感受性やVacAの投与濃度の問題などが今後の課題である。
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