研究課題
最近、βラクタム系抗生物質がシステインなどのチオール化合物の存在下で抗菌活性を失うことを見出した。本研究では、βラクタム系抗生物質とチオール化合物との反応を解析し、その抗菌剤感受性の制御に与える影響を明らかにすることを目的とした。システインとβラクタム系抗生物質の一種であるアンピシリン、メロペネムとの反応産物を同定し、その化学構造を質量分析と構造解析により調べた。その結果、システインとβラクタム系抗生物質は、システインのアミノ基とβラクタム系抗生物質のβラクタム環を介して1:1付加体を形成していることが明らかとなった。このことは質量分析により得られた知見と一致している。質量分析器を用いた解析から、βラクタム系抗生物質を処理した大腸菌からシステイン-βラクタム付加体が検出されることが分かった。このことから、本反応は細菌内でも起こり得ることが強く示唆される。システインとβラクタム系抗生物質との付加体形成の生物学的意義の解明のために、細菌のシステイン輸送に着目した。大腸菌はシステインをペリプラズムへ積極的に輸送することにより、外環境からの酸化ストレスから菌体を守っていると考えられている。そこで、このシステイン輸送機構と抗菌剤感受性との関係性を明らかにするために、システイン輸送関連遺伝子であるfliYとydeD欠損株のβラクタム感受性を調べた。その結果、fliY欠損株では野生型に比べβラクタム感受性が高くなることが分かった。以上のことから、ペリプラズムのシステインがβラクタム系抗生物質と反応し、不活化することで、細菌の抗菌剤耐性に寄与していること示唆された。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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