気候変動による生態系の変化の一つとして、緯度的な生物相のシフトが挙げられる。この変化をいち早く把握するためには、効率的にサンプリング可能な生物群集と、できるだけ限られた範囲で緯度的な生物相の変化がみられる地域を特定する必要がある。本研究は、潮間帯性動物群集に注目し、大隅諸島を含む九州東岸地域が温暖化による沿岸生物相の変化を効率的かつ継続的に把握するためのモニタリングサイトとして適した場所であるかを検証するものである。種子島、宮崎県、大分県を対象地域とし、沿岸の岩礁と河口干潟で緯度的に異なる4および6地点をそれぞれ設定し、潮間帯にできるタイドプールで魚類と甲殻類の定量的なサンプリングを行った。この調査は、低水温期の後(春季)と高水温期の後(秋季)双方で行い、どちらの時期で動物群集の緯度的な変化がみられるかも検討した。採集された動物は、各種の分布情報に基づき生物地理学的なカテゴリーに分け、生物相の緯度的な変化の指標とした。具体的に魚類は、冷温帯種、暖温帯種、熱帯種の3通りに、甲殻類は冷温帯種、広域分布種、暖温帯種、亜熱帯種、熱帯種の5通りに区分された。調査の結果、全ての動物群、環境、時期において、種子島においては亜熱帯種、または熱帯種が他の地域に比べてその割合が高くなった。緯度的な生物地理カテゴリーの変化については、秋季の岩礁域では魚類、甲殻類共に熱帯種の割合が緯度的に北上するにつれ減少する傾向が見られたが、河口干潟域では、いずれの時期、いずれの動物群においても緯度的な階層構造はほとんど見られなかった。以上の結果から、河口干潟域は生物相の緯度的変化の把握に適していないが、潮間帯岩礁域の動物群集に関しては、緯度的な階層構造が明確に見られることが確かめられた。今後は黒潮の流路等、東九州の沿岸環境の年変動に影響する要因と潮間帯岩礁域の動物群集の関係について詳細な調査が必要である。
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