本研究の目的は、平和構築の成功事例であるインドネシアのアチェと現在平和構築プロセスが進行中であるフィリピンのバンサモロの比較研究から、紛争の社会的一体性(Social Cohesion)に対する影響と平和構築の関係を探り、より効果的な平和構築政策を模索することである。平成27年度は主にインドネシアのアチェの調査を行った。 アチェでは、インドネシア軍の一般市民に対する非人道的行為、それに抗議する市民団体と武装集団GAMとの連携や、GAMの高い忠誠心や規律、対立グループの不在などのため、紛争後の社会的一体性は高かった。そのため紛争後戦闘員の社会的な統合は比較的スムーズに進み、アムネスティや地方政党の設立などによりGAMの政治統合も実現した。一方で社会統合プログラムの失敗もあり、GAMの上層部を除く旧戦闘員、排除されたグループの間で十分な賠償を受けていないとの不満が高まり、経済的な統合は問題が残っている。特にインド洋沖地震及び津波の復興援助終了後、経済格差の拡大や未だに高い貧困率、政府の支出頼みで産業が育たない地域経済の停滞への不満が高まっている。また民主主義やガバナンスの面でも、GAMの後継団体であるアチェ移行委員会(KPA)や旧GAM有力者間での権力争い、汚職や縁故主義の拡大、政策の透明性や行政能力の不足、市民社会の衰退などの課題がみられた。 以上より、アチェは平和構築の成功事例ではあるが、社会的一体性の高さが紛争解決後の経済復興や、民主的なガバナンスの構築に有効に結びつかなかった。しかし巨額な災害復興援助のためこれらの問題が早期に表面化することはなかった。従ってバンサモロなどの今後の紛争後の平和構築では、社会的一体性の状況を広義の復興政策に結び付け、社会・経済・政治の統合から長期的な経済復興、カバナンスの改善、民主主義の拡大と定着に貢献するような方策を行うことが重要である。
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