最終年度は9月1日から21日まで、2月25日から3月25日までの年二回、イタリア、オーストリア、スペイン、イギリスにて海外調査を行った。まずウィーン美術史美術館新館でヴェスパシアーノおよびハプスブルク家のカール五世、フェリペ二世の武具甲冑の撮影調査を行い、北伊コモ市の市立博物館にてスペイン王フェリペ二世の肖像画家として名声を馳せたアントニス・モルによる《ヴェスパシアーノ・ゴンザーガ・コロンナの肖像》の撮影調査を実施して、フィレンツェ美術史研究所、プラド美術館付属図書館で図像解釈研究を進めた後、従来曖昧にされてきたスペイン王フェリペ二世の美術嗜好とヴェスパシアーノの肖像制作の影響関係を様式的・図像学的に検証し、その成果を『日伊文化研究』第55号で発表した。続いてサッビオネータのパラッツォ・ドゥカーレ「祖先のガッレリーア(回廊/ギャラリー)」の壁画装飾の撮影調査を行い、初年度実施したアンブラス城のチロル大公フェルディナンド二世の肖像コレクション調査結果と併せて、16世紀後半の西欧宮廷における蒐集趣味の高まりとガッレリーア建設の隆盛、そのなかでの肖像美術の位置づけを再考し、人文主義文化と古代ローマのイマギネス・マイオールムの伝統、またエル・パルド宮殿にフェリペ二世が建設させたハプスブルク家の肖像ギャラリーとの影響関係を確認した。その図像学的・図像解釈学的成果を『SCU JOURNAL』(英語要旨・和文)Vol.10で発表した。また彫刻家レオーネ・レオーニが制作したブロンズ製のヴェスパシアーノの全身座像(現在、サッビオネータ聖母戴冠聖堂に所蔵)の撮影調査をもとにフィレンツェ美術史研究所での図像分析作業とパドヴァ、ヴェネツィア、ミラノにおける関連作品の調査を通じて知見を得た。これに関しては年内に論文として起草・発表する準備を進めている。
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