本研究の目的は,統計的推測および実験計画の問題の背後にある代数的構造に着目し,それを積極的に利用することにより問題を解決することである.本年度は,昨年度に得られた理論的成果の精査と,提案手法の実装に主に取り組んだ. 統計的推測の研究としては,昨年度から行っている代替的t-分布の規格化定数の数値計算に関する研究を継続した.この問題は,第一象限に制限された多変量切断正規分布のモーメント計算に帰着される.本研究ではVeronese配置の特別な場合に付随するA-超幾何系に基づくホロノミック勾配法による数値計算手法の確立を目標としていた.前年度の研究から,ホロノミック勾配法に基づく計算で必要になるパフィアン系の計算手順は得られていた.この計算手順はやや煩雑なものではあるが,今年度の研究により,パフィアン系に基づく計算の前提となる初期値計算の手法も含め,ホロノミック勾配法の一通りの手続きを実装した.特殊関数もしくは複数の一次元の積分に帰着され,精度のよい計算が容易に行える場合を用いて,提案手法の実装についてその性能を検証した. 実験計画に関しては,昨年度から行っている研究内容を精査し,国際会議で発表を行った.具体的には,各要因の水準を1のn乗根でエンコードした場合を考え,複数の分解能を用いたよい実験計画の基準を満たす計画を構成する問題に取り組んだ.要因のグループごとに一定の性能をもつ計画をもとにして,全体としての要件を満たす計画を構成する方法を構築し,数理統計学の国際会議で発表した.
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