本研究は、契約法における任意法規の意義や機能を検討することを直接的な目的とするものである。本年度は、社会的厚生の最大化という目的から見た場合に、任意法規がいかなる意義及び機能を果たしうるかという点に関する検討を、法の経済分析のアプローチを用いて行った。また、社会的厚生の最大化とは異なり、個人の自律の尊重や、社会的正義の実現という観点から任意法規を設計する立場を整理し、これらの立場と、上記の方の経済分析アプローチによる任意法規との比較検討を行った。 本研究では、任意法規は、契約法の領域において(1)取引費用の削減、(2)対称情報の実現、(3)非合理的な意思決定の方向付け、という意義を持つことを指摘した。(1)(2)は合理的意思決定理論を前提とする伝統的な経済学の知見、(3)は行動経済学の知見に基づくものである。そして、従来、任意法規の機能として指摘されてきた補充的機能や内容調整機能は、これらの観点から統一的に説明可能であることを示した。また、契約法解釈の指針としての仮定的当事者意思という基準についても、社会的厚生の立場から正当化可能であることを示した。 本研究は、さらに、契約法における私的自治と契約正義の関係について分析的に理解する理論の構築という目的を背景に設定していた。この目的についても、任意法規というフィルターを通して一定の指針を得ることができた。 研究の過程では、強行法規との関係や、典型性の問題など、今後の課題を得ることができた。 本年度は、これまでの研究成果を踏まえて、私法学会(於東京大学)において研究報告を行った。また、個別の研究会においても報告を行った。
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