研究課題/領域番号 |
15H06550
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
土井 賢一郎 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (80382050)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | オートファジー / アポトーシス / ネクロプトーシス / 癌治療 / 低分子化合物 |
研究実績の概要 |
癌治療を目的とした分子標的薬の多くは癌細胞にアポトーシスを誘導するが、癌細胞は容易に薬剤耐性を獲得し単剤での再発が多い為、今日では異なる作用機序の組み合わせや、相乗効果を期待した併用療法が一般的である。今回私が提案する研究課題は、オートファジーとアポトーシスのクロストーク機構に着目した、固形癌や血液癌に対する効率的、かつ毒性の軽減を図った薬物併用療法の開発することです。ここで本研究を遂行するにあたり、若干の計画変更があったのでご報告いたします。1つ目の課題は、オートファジーの活性化はがん細胞の生存や悪性化の進展に寄与する(有益)のであろうか? 2つ目は、今日までに我々が開発してきたアポトーシス誘導性低分子化合物と、FDA認可済の抗がん剤などを併用した場合、癌細胞選択的に相乗的な細胞死を誘導することが出来るかどうか?という課題です。ここで重要視する点が、誘導される細胞死パターンを明らかにすることです。以下に解明すべき細項目課題を3つに絞って行いますので、是非ご了解いただきたいと思います。1)ラット腎細胞癌と肺高転移性株を樹立し、癌細胞が高転移能を獲得する際のオートファジーが果たす役割を解析すること。ラットを用いた移植実験により、我々は複数の高転移株を得ることが出来た。2)ヒト正常膀胱上皮細胞が悪性形質転換をする過程で、オートファジーの果たす役割を解析する。ヒト正常膀胱上皮細胞と5種のヒト膀胱腫瘍細胞株を購入、または入手し培養を開始しました。3)ヒト多発性骨髄腫細胞株が薬剤抵抗性を獲得する過程でのオートファジーの果たす役割を解析する。この課題はこれから着手する予定であります。今後は、これら細胞に我々が開発してきたアポトーシス誘導性低分子化合物を投与し、細胞死を評価する実験を行い、更に各種阻害剤との併用による薬理学的実験を計画しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究支援活動助成は昨年の10月に開始されたもので半年しか経過していない。また大学での本来の業務が多忙なため、本研究に対するエフォートを30%と低く設定していることから、やや出遅れた感がある。しかしながら本研究の目標とするところは、極めて基礎的、かつ普遍的な科学的実証を行いたい、というところが原点であります。基礎的実証から初めて、最終的なマウス移植実験に至る一連の研究であることを、是非ご理解いただきたいと思います。本科研費は全体計画のうちの最初の1年半を担当するに過ぎないのであります。現在は細胞株を使った研究の段階で、細胞の樹立とin vitroでの解析を優先して行いたいと考えます。我々の目標はまず、細胞死の概念を深く探求する、そのための道具として、新規のアポトーシス誘導性低分子化合物と既存の薬剤を用いる計画であり、地道に着実に科学的事実を積み上げていくことが、後々の研究発展の基盤となると確信しておりますことを、深くご理解いただければ幸いであります。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べたように、本研究課題は複数年を要するもので、最終の動物実験での実証にまで至ることを一連の目標にしています。現在は、最も初期段階の細胞樹立を行っている最中で、特に本年度中に達成すべき細項目を、上記1)2)3)の3つの課題に限定いたしました。いずれの細項目も極めて基礎的、かつ普遍的な科学的事実を確立するための実験系であり、細胞が悪性形質転換する際の変化、更に癌細胞が転移能の獲得や薬剤抵抗性の獲得などより悪性化が進行する際の変化、蛋白発現の変動というものを主に解析していくことが基礎となります。新規開発したアポトーシス誘導性低分子化合物と、FDA認可済の薬剤を併用した場合に、もしも相乗的有効性が認められるとするならば、その癌細胞死のパターンがアポトーシスなのかオートファジーなのか、またはネクローシスなのかネクロプトーシスなのかを、各種阻害剤を用いて解析する予定であります。大変に基礎的かつ普遍的な本課題の結果として、有効な薬剤併用の組み合わせや、その背景機序の一端でも解明できたならば幸いです。癌細胞特有の性質についてより深く理解し、癌細胞死の分子基盤に基づいた将来の癌治療法の開発につながることを目標としております。今回のスタートアップ科研費は全体構想の序章に過ぎないものであり、我々は引き続いてあらゆる手段を試み、本課題が推進するように積極果敢に行動してゆきたいと考えております。
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