毛孔性扁平苔癬(LPP)を含む原発性瘢痕性脱毛症は疼痛、炎症、浸出液、感染を伴い永久脱毛になる疾患である。QOLは著しく低下し、不可逆性の脱毛により社会心理面でも大きな不利益がある。しかし、決定的な治療方法は確立されていない。発症メカニズムとして毛包上皮幹細胞の不可逆的な障害によって生じると考えられている。我々は毛包上皮幹細胞における上皮間葉転換(EMT)の発現について着目した。 昨年度までで、LPP患者の毛包上皮幹細胞において、タンパク質レベル及び転写レベルで上皮間葉転換の発現を確認し、同疾患の発症メカニズムに毛包上皮幹細胞のEMTが関与していることを示した。 今年度は、まずLPP患者検体において毛包上皮幹細胞を電子顕微鏡で観察し、線維芽細胞様の細胞への変化や膠原線維の産生を認めた。これにより、超微細構造でもEMTの関与が示唆された。 これまで毛器官培養での瘢痕性脱毛症の実験モデルは確立されていなかった。我々は正常ヒト頭皮の検体を用いた毛器官培養で、毛包上皮幹細胞にEMTを導入することで、原発性瘢痕性脱毛症のex vivoモデル確立を試みた。TGFb1、EGFを含む4種類の薬剤を投与することで、ヒト毛器官培養での毛包上皮幹細胞にEMTを導入することに成功した。 また過去の報告で、糖尿病治療薬であるPPARgアゴニストは、培養細胞レベルでEMT抑制効果が示唆されている。更に臨床的にも、糖尿病を合併している原発性瘢痕性脱毛症患者にPPARgアゴニストが投与されたところ、同疾患が改善された報告がある。我々が確立した瘢痕性脱毛症のex vivoモデルにPPARgアゴニストを投与したところ、培養毛器官の毛包上皮幹細胞でのEMTの発現を抑制することができた。これにより、EMT発現抑制の観点からも、PPARgアゴニストが新たな原発性瘢痕性脱毛症の治療法になる可能性を見出すことが出来た。
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