平成27年度の研究により、患者から暴力を受けた看護師の成長プロセスは、《踏みとどまる》《認識の変化》《責任感の高まり》《成長の実感》の4つの局面があることが考えられた。これを基礎資料として、平成28年度は、対象を広げて更なるデータ収集を行い、分析を行った。その結果、成長の内容と4つの局面の妥当性が確認できた。 さらに、各ケースのケース像を作成し、比較・検討していった結果、看護師が活躍する場(精神科と一般科、病棟と在宅、など)での違いは見られなかったが、新人・中堅・ベテランなど看護師の経験年数によって、体験から生じる感情体験と体験の乗り越え方が異なっていることがわかった。看護師にとって、患者から暴力を受ける体験は看護師としての自己を揺さぶられる体験であり、これまでに築いてきた看護師としての自信を喪失させるものであった。そのため、自信が芽生え始めた中堅看護師が一番衝撃を受けやすいという特徴が見られた。ベテラン看護師も看護師としての自信が揺さぶられるが、その患者に直接関われなくても、チームの中で力を発揮するなど、残された自信を保持し、回復させようとするような行動がとられていた。ベテラン看護師は、その立場から辛さを表現し難く、周囲のサポートを得られにくい特徴があるが、これまでに培ってきた個々の信念に従い、苦しみながらも問題解決に向けて行動するなど、周囲を巻き込みながら自身の力で成長していた。これらのことから、暴力被害にあった看護師への支援は、経験年数に応じて変化させることが重要であることがわかった。 今回の研究で明らかになった成長プロセスと経験年数ごとの特徴を踏まえて、患者から暴力を受けた看護師の成長モデルを作成した。成長モデルは、看護師としての信念を中心に4つの局面が段階的に広がっていくモデルとなった。そして、その成長モデルをもとにして、臨床で活用できるガイドラインを提案した。
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