「人間が抽象的な統語構造を作り出す際に拠り所とする生得的言語知識の体系」を普遍文法(UG (Universal Grammar))と定義づけるのが生成文法の中核的な考え方であり、話し手聞き手は同質のUGを持つとされている。しかし、統語構造を生成するのはUGであるものの、その構造は実際の言語使用の場面では線形化された表現として与えられるという意味で聞き手にとって不可視である。従って、話し手の頭の中で作られた統語構造の存在を聞き手に気づかせる手段、即ち「構造指示の仕組み」が文法体系の中にあって然るべきである。この仕組みが存在すると想定した上で、それが明示的に定式化されていないという意味で(のみ)、生成統語論は「聞き手視点不在の統語理論」であると言える。本研究は、生成統語論と構造指示の仕組みによる相互補完的な説明体系の構築を目指し、その適用を示すものである。 平成28年度は、平成27年度における研究成果を土台として、日英語における個々の現象(日本語修辞疑問文形成・日本語不変化詞残留・英語主語省略)の分析をさらに推し進め、生成統語論と構造指示の仕組みによる相互補完的な理論の精緻化をはかった。その成果は、未刊行のものもあるが、国内外の国際学会発表、論文掲載という形で示された。しかしながら、研究実施計画に沿って遂行できなかった課題(言語の史的変化にまつわる問題)も残されている。これについては、本研究の方向性を引き続き推し進める中で検討し、成果を収めることとしたい。
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