ナノ粒子(直径 100nm 未満であると定義)は、医薬品、診断および治療、食品や化粧品、歯科の 分野での有用性が認められている。一方、遺伝毒性および炎症誘発性も報告されているので、安 全に使用するためには、適切なリスク評価の必要性が指摘されている。歯学においては、酸化チ タンのナノ粒子をグラスアイオノマーセメントに含有させることにより、機械的強さおよび抗菌 性が向上することが知られている。また、チタンは、歯を欠損した部位に対し歯科用インプラン ト材料(人工歯根)として使用されている。 本研究では、酸化チタンの炎症増悪作用について、培養細胞株を用いて実験を行った。チタンは、歯科治療いおいて、歯髄に接触すると、炎症反応を誘発するおそれがあるとされてきたがその詳細は不明であった。これまでに、酸化チタンナノ粒子は、ヒト口腔扁平上皮細胞癌細胞における炎症反応(IL-1βで刺激するとプロスタグランジンを産生、またシクロオキシゲナーゼ2タンパク質の発現誘導)を誘導することを実験により明らかにした。また、歯根膜線維芽細胞と歯髄細胞を用いた実験では、酸化チタンによって、IL-1βによるCOX-2の発現が増大する結果を得られた。特に歯髄細胞で顕著にIL-1βのCOX-2の発現増大認められた。このように、酸化チタンは炎症反応を増悪する作用が培養細胞レベルで明らかとなった。歯科治療においても、酸化チタンの使用は患者のQOLを考慮すると使用を控えたほうが良いのかもしれない。今後は、動物レベルで酸化チタンの炎症反応惹起のメカニズムを解析することを考えている。
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