本研究は,英語学習者が文と文をつなげてテキストを理解するメカニズムを,文間の因果的・意味的な関連という2つの要素に着目して明らかにすることを目的とした。前年度は,本研究に用いる実験材料の作成と,文間の因果的・意味的な関連がテキストの一貫性に対する英語学習者の知覚に与える影響を検証した。 本年度では,文間の因果的・意味的な関連が英語学習者のテキスト内容の記憶に与える影響を検証する実験を新たに実施した。実験材料は前年度と同様のものであり,2文1組の英文を複数用いた。これらの英文は文と文の因果的・意味的な関連度が操作されている。因果的な関連度については英語に習熟した日本人学習者複数名による主観的評価,意味的な関連度については潜在意味解析(言語コーパスと統計解析に基づいて意味的な関連を評価する手法)によって算出された値に基づいている。 実験では,日本人大学生47名が上記の2文1組の英文を読解し,全ての英文の読解後に,各英文の1 文目を手がかりとしてペアとなっていた2 文目の内容を日本語で想起する筆記再生課題を行った。2文目の内容の再生率を予測する統計モデルを検討した結果,文の因果的な関連度が高いほど2文目が再生されやすい傾向が示された。また,意味的な関連度が高いほど2文目の内容が再生されやすい傾向も見られたが,これは読解力が比較的高い学習者でのみ顕著であった。 これまで文の因果的な関連の影響を報告した研究は多くあったものの,前年度も含めた本研究の結果によって文の意味的な関連も英語学習者の読解に影響することが新たに示された。つまり,英文読解において文と文のつながりを理解する際,因果的な関連とともに意味的な関連も一定の役割を果たしていると言えよう。本研究の成果は,日本人の英語習得や英文読解において,意味的な関連度が果たす役割を今後も検討していくことの意義を示すものである。
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