近年、誘電体バリア放電やプラズマジェットなどの大気圧プラズマによる医療や環境改善への応用研究が盛んに行われているが、その基礎データとしてイオン移動度やイオン・分子反応の反応速度係数などの需要が高まっている。本研究では大気圧付近の酸素中において、ppb-ppmオーダーの極微量な水分濃度を変化させながら負イオン移動度を測定し、得られた結果よりイオン・分子の反応速度係数について検討を行った。 まず、純度99.99995%の酸素をガス精製器に通すことによって得られる超高純度酸素に、ppb-ppmオーダーの水分を添加して負イオン移動度を測定したが、酸素中に微量水分を添加するために、ステンレス鋼製の水を入れた容器とチューブからなる拡散管を製作した。実験容器に流した酸素中の水分濃度は微量水分濃度計でモニターし、拡散管のチューブの内径と長さを調整することによって、水分濃度を15-17000 ppbの範囲で変化させることを可能とした。このようにして、水分濃度を変化しながら幅広い換算電界強度E/N(Td)に亘って負イオン移動度の測定を行った結果、酸素中の微量水分濃度の上昇によってクラスターイオンが形成される過程を、移動度の減少として観測した。さらに、実験結果とシミュレーション結果を比較することによって、観測した4種類の移動度のイオン種及び酸素中のイオン・分子反応の反応速度係数の推定を行った。 負イオン移動度や反応速度係数などの基礎データの収集は、これまで低ガス圧力下で行われることが多く、大気圧を含めた高ガス圧力下で形成されるクラスターイオンについての検討は十分でない。本研究で得られた大気圧付近の酸素中における微量水分濃度を変化させて得られたクラスターイオンの移動度や、イオン・分子反応の反応速度係数についての研究は世界的に見ても初めての試みであり、この分野における重要なデータを得ることが出来たと思われる。
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