本研究は、国際政治の一大変革期であり、現在に至る国際システムの基礎構造が確定・成熟した近世、とりわけ18世紀ヨーロッパ国際秩序に着目することで、「国際システム」「国際協調」「勢力均衡」「国際法」「外交」といった国際政治の基礎概念を再定義し、現代国際政治に偏った国際政治理解を修正する全体構想の一部である。 平成28年度の研究実績として、第一に国際政治史研究の源流としてのドイツ歴史学派がイギリス政治史学・外交史学、とりわけケンブリッジ大学の学統に対して大きな影響を及ぼしていることを解明した。 第二に古典外交の成熟において、諸大国が現実主義外交の側面を維持しつつも国際秩序の担い手として、協調外交を展開する際のプロセスを明確にし、その中でもとりわけ、「全会一致convenance」の原則が共有されたことの重要性を発見した。 第三に「システム」という用語が国際秩序に適用された起源を明確化し、17世紀後半にプーフェンドルフによって開始されたドイツの諸国家体系論が19世紀にヘーレンの諸国家体系論として歴史研究として大成され、その後のドイツ歴史学派の起源となっていることを突き止めた。さらにこうした「システム」の議論は、現実主義的な内容を持っていた初期の勢力均衡を社会化し、諸大国とりわけ覇権を目指す国家の剥き出しの暴力性を馴致化していったことを明らかにした。 第四にヨーロッパ国際政治史のプロセスを再構成するための方法論として、思想史と外交史から構造に関わる部分を抽出し、諸国家体系(国際システム)を基軸とした構造史として立体化する方法論を従来のドイツ歴史学派の議論の中から明確化した。 以上の研究実績は主として「国際政治史研究におけるドイツ歴史学派の方法論―18世紀ヨーロッパ諸国家体系の成熟過程を中心に」という論文にまとめ、評価の高い代表的学術誌における査読付き論文として公表することとなった。
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