ビフィズス菌は,乳児から成人の大腸に棲息する嫌気性細菌である。ビフィズス菌の宿主腸管における生存戦略として,腸粘膜への付着性と糖の資化性が重要な鍵を握っていると考えられている。本研究では,Bifidobacterium bifidumの細胞外提示型のシアリダーゼに着目し,付着因子と栄養獲得因子の両面からその役割について解析することで,シアリダーゼを介した宿主腸管への定着機構の解明を目的とする。 B. bifidumのシアリダーゼ変異株を作製し,ヒトミルクオリゴ糖やムチンオリゴ糖を糖源として生育試験を行ったところ,野生株と比較しシアリダーゼ変異株の生育が低下した。また,シアリルラクトースや酸性ムチン糖鎖を糖源とした場合,その差がより顕著に認められた。さらに,B. bifidumのムチンへの付着性を検討したところ,シアリダーゼ変異株において顕著に低下した。これらの結果から,シアリダーゼがミルクやムチンに含まれる難分解性のシアリル化糖鎖を切断することで効率的な資化に寄与すること,さらに付着因子として機能すると考えられた。 次に組換えシアリダーゼタンパク質を用いて相互作用解析を行った。シアリダーゼは,ムチンに対して濃度依存的に結合したが,シアリダーゼの中央に保存されるNeuraminidase domainを欠損すると顕著に結合が低下した。興味深いことに,酵素活性阻害剤の添加はシアリダーゼの結合性に殆ど影響しないことから,酵素活性は結合に必須ではなく糖鎖の切断と結合は異なる過程で生じると考えられた。そこで,糖鎖アレイにより結合エピトープ解析を行ったところ,6'-シアリルガラクトースに結合することに加え,血液型糖鎖に対しても結合する性質をもつことを見出した。 以上の結果は,シアリダーゼが付着性と栄養獲得というビフィズス菌の生存に重要な役割を担う因子であることを示している。
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