大気汚染公害訴訟(以下、訴訟)において「地域再生」の視点を取り入れることが、地域にどのような影響を及ぼしてきたのか。また、高度成長期以降の住民運動としての公害反対運動はどのように変化してきたのか。本研究では、今日の住民運動の源流としての公害反対運動に注目し、それが1980年代以降の住民運動冬の時代から現在にいたるまで、地域にもたらした影響について分析した。 その結果得られた研究成果としては大きく次の2点に分けられる。(1)戦後住民運動の原点とされた公害反対運動は、住民運動冬の時代に公害患者運動として展開されてきたこと、(2)公害反対運動や訴訟の経験が、地域再生・環境再生の運動に影響を及ぼすことである。公害問題に関する研究は住民運動や公害反対運動の分析に蓄積があるが、公害患者運動は等閑視されてきた。本研究では、特に訴訟において「地域再生」の視点を取り入れた地域では、訴訟の和解金をもとに地域の生活環境改善を目的として設立された財団が、継続的に「地域再生」・まちづくり運動に取り組んでいることが明らかとなった。このことから訴訟において「環境再生」の視点を取り入れることの意義が実証された。一方で、訴訟において「地域再生」の視点を取り入れなかった地域においても、運動の空白期間はあるが環境運動が再スタートしていた。しかし、実際には公害被害地域の「地域再生」は実現していない。また、新たな大気汚染公害問題も発生している。 1960年代の大気汚染公害とその被害者である公害患者、公害患者運動から学ぶことは多く、その経験は生かされなければならない。今後の研究課題として、公害患者運動を軸に1980年代前後の住民運動とその研究を対比し、その分断と連続性を明らかにすることを通して、公害患者運動が果たしてきた役割と今日の課題を明らかにする必要がある。
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