本年度は、研究のとりまとめとして、拙著『高齢犯罪者の権利保障と社会復帰』(法律文化社、2017年1月公刊)の執筆作業を中心に研究作業を行った。 執筆をするにあたり、日仏の高齢犯罪者が置かれている状況に関する補充調査を行った。日本においては、地域生活定着支援センター職員、刑務所職員、保護観察官、および当事者へのインタビューを行った。本研究が着目している高齢者の「傷つきやすさvulnerabilite」に関連しては、近時「認知症」「老年うつ」などの「見えない」疾患の発見・対応が問題になっていることが明らかになった。しかしながら、その一方で、それらの疾患を刑務所内で診断することが難しい、また、その兆候を刑務所内で発見することが難しい、という実務上の問題も浮き彫りとなった。とりわけ、そのような疾患の場合、高齢受刑者は今自分が刑務所に拘禁されていることすら理解できないないことがある。そのような場合には、もはや刑務所に拘禁する意義はないように思われる。本研究では、一つの問題提起をするにとどめ、このようなケースに対する自由刑の在り方については今後の検討課題としたい。また、フランスについては、SPIP(保護観察官)、サルペリトワール保安病院、JAP(刑罰適用裁判官)、関係するアソシアシオンへのヒアリング調査を行い、高齢者の特性に応じた処遇および刑罰の執行状況について確認した。さらに、日仏両国における近時の高齢受刑者処遇に関する統計の収集分析を行い、データのアップデートを行った。
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