本研究は後期エンドソームに特異的に存在する非常にユニークなリン脂質であるBMP(Bismonoacyl(glycero)phosphate)が、ω3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)を何故豊富に含むのか、その生理的意義を明らかにすることを目的とした研究である。本年度ではまず、BMPへのDHAの導入に関わる酵素ABHD4の欠損マウスや阻害剤を用いて、マウスの様々な臓器や細胞における脂質解析を行った。その結果、ABHD4の発現が最も高い精巣だけでなく神経系、特にアストロサイトにおいて、実際にABHD4がBMPへのDHAの導入に関わることが分かった。また、DHAを生体内で生合成出来ないモデル動物としてFADS2欠損マウスをCRISPR/Cas9システムを用いて2ライン樹立することに成功した。これらのマウスにDHA欠乏食を1ヶ月与えた後に様々な臓器の脂質解析を行ったところ、まず肝臓や腎臓といった臓器においては、BMP中のDHA量が著しく減少した。一方、DHAが保持されやすい脳や精巣といった臓器においてはBMP中のDHA量はあまり減少しておらず、おそらくDHA欠乏食をより長期間与える必要があると考えられた。精巣のBMPにおいてはDHAよりも、構造的に似ているDPA (docosapentaenoic acid)がより豊富に含まれていることが明らかになっており、DHAと同様の機能を果たしていることが想定されるが、FADS2欠損マウスではBMP中のDPAがほぼ消失していることが明らかになった。このことは、FADS2欠損マウスがBMP中のDHAまたはDPAの機能を解析するうえで非常に適していることを示唆している。現在作製中のABHD4とFADS2の二重欠損マウスを用いて、今後詳細な表現型解析を行っていく。
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