腹部外科手術後の腸閉塞の原因である腹腔内癒着のメカニズムについてマウスを用い実験を行った。外科侵襲に伴い線維素溶解系がPlasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)により抑制されることが示され、その遺伝子欠損マウスでは、癒着が発症しないことが判明した。また東北大学から提供されたPAI-1阻害薬でも同様の効果を認めた。PAI-1の遺伝子欠損およびPAI-1阻害薬では、PAI-1の活性化は抑制され、tPA、Plasminの活性化が認められ、線溶系の促進をもたらすことで癒着が解消されることが判明した。しかしながら遺伝子欠損マウスでは損傷治癒過程である癒着がもたらされないことで腹腔内出血の可能性が示唆され、Hbの低下を認めた。しかしながらPAI-1阻害薬では、腹腔内出血は認められなかった。癒着組織にはマクロファージ、T、B細胞などの炎症細胞の浸潤が認められていたが、遺伝子欠損PAI-1マウスでは炎症細胞の浸潤が認められなかった。Rag-2欠損マウスを用い、またクロドロン酸を用いることで、マクロファージがもっとも癒着に関与する細胞であることが示唆された。PAI-1によりマクロファージの腹腔内の動員が抑制されたおり、PAI-1による遊走がPAI-1阻害薬によって抑制された。またマクロファージはEpidermal growth factor(EGF)の分泌に関与しており、そのシグナルをEGFR阻害薬で抑制することでもって癒着が解消された。PAI-1は一時止血でも重要な血小板や腹膜上皮である中皮細胞が分泌を担当しており、中皮細胞上でEGFRを介して強固な癒着が形成される可能性が示唆された。
|