本研究は、国連暫定統治の下ではじまった東ティモールにおける国家構築の過程を、リベラル・デモクラティックな国家制度と伝統的な共同体に根差した社会秩序との相克という観点から考察することを目的とした。研究プロジェクト2年目に当たる2016年度の成果は、研究の方法に関するものと、実証研究に関するものに分けられる。 まず研究の方法に関しては、非西洋世界における国家構築論や平和構築論における方法論的前提の再検討を行った。ここでは、既存の議論がしばしば現地の伝統や文化を見落としがちであったり、西洋中心主義的な前提に立って「伝統」や「文化」を定義しがちであったことを指摘し、現地アクターのエージェンシーを前提とした研究方法を提示した。このような研究方法に関する研究の成果は、日本国際文化学会の研究大会における研究報告「国際文化学としての地域研究:地域との対話を通じた研究方法の構築」や、日本国際政治学会の学会誌『国際政治』に発表した論文「リベラル平和構築とローカルな法秩序」第二節に発表することが出来た。 またこうした方法的前提を踏まえて実証研究を行い、その内容を論文「リベラル平和構築とローカルな法秩序」第三節以下などの論稿に公表した。ここでは新たに構築された国家制度が、ポストコロニアル国家特有の諸条件(旧植民地国家との関係やそれに関する記憶など)や、「前近代的」諸条件(共同体の規則や信仰など)に規定されながら運用されていることを明らかにした。また東ティモールへの出張では議会と大統領の対立関係、資源ナショナリズムのなど、ポストコロニアル状況にある東ティモールの国家構築の新たな事態の進展についても研究を進めることが出来た。
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