昨年度に引き続き,多面体の直径および単体法の計算量に関する研究を行ない,主な成果として以下を得た. (1) 多面体理論における主要な未解決問題の1つとして,直径の良い上界を見つける問題がある.特に,多面体の次元とファセット数をパラメータとする設定は最も基本的であり,古くから盛んに議論されてきた.昨年度は,この設定において,計算機を用いた新しい証明方法を確立し,既存の上界を(数値的に)大幅に改善した.しかしこの結果は飽くまで数値的な改善であり,オーダーの意味での改善がどの程度であるかが不明瞭であった.またその性能が計算機に依存するという弱点もあった.そこで本年度は,計算機を用いない別の証明方法についても探求した.結果として,既存の準指数関数の上界の指数部が漸近的に改善されることを証明した.証明された改善幅は高次元になるほど大きくなる. (2) 単体法の計算量を解析する際,議論を簡単にするために,付随する多面体が非退化であることを仮定する場合が多い.そこで,非退化を仮定しない,つまり多面体が退化している場合に,単体法がどのような挙動を示すかについて観察することにした.単体法は多面体の端点を辿って最適解を見つける手法である.そのため,端点が少ない問題であれば比較的簡単に解けると考えられる.しかし本研究では,端点がたった1つの多面体であっても単体法の計算量が指数的に増加するような,簡潔な問題例を構築した. (1)と(2)の成果をまとめたものは,査読付き国際会議と査読付き国際論文誌にそれぞれ採択されている.
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