近年深刻化する職場いじめ・ハラスメント問題について、契約上の責任を使用者(企業)に問う場合、職場環境配慮義務違反が問題となり得るが、その義務内容は必ずしも明らかでない。そのため、職場いじめ・ハラスメントの文脈において同義務が十分に活かされているとは必ずしもいえず、その内容(行為規範)の確定が理論上ないし実務上の課題として認識されている。よって、本研究は同義務内容の確定を目的とする。かかる目的を達成するため、本研究は、職場いじめ・ハラスメントにつき複数の法的アプローチを有し先進的なイギリスを比較法研究の対象とする。研究代表者においては、これまで職場いじめ・ハラスメントに係る同国制定法の研究を積んでいるが、本研究ではコモン・ローにおける相互信頼(mutual trust and confidence)義務にも着目しつつ、具体的な行為規範としての「職場における dignity 方針」を参照することで示唆を得る。 当該年度において、研究代表者は、前年度における研究を発展させ、職場環境配慮義務の内容について明確化を試みた。さらに、そもそも「職場におけるdignity方針」そして相互信頼義務さらに職場環境配慮義務が、いかなる思想・哲学に立脚しているのか、あるいは、立脚し得るのか、その深淵を探るべく、正義に係る議論との関係について試論した。その結果、一定の視座を得ることとなり、同義務内容は一層明確となった。これらの研究実績については、当該年度において学術誌に公表済みであり、あるいは、今後公表する。 また、研究代表者は、日本労働法学会第131回大会(於 同志社大学)でのシンポジウム「職場のハラスメント問題への新たなアプローチ」において「ハラスメントに係る使用者の義務・責任」につき報告を担当するなど、学会ないし研究会での研究報告を複数回行った。
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