研究課題
本研究の目的は、銀行による顧客企業の株式保有が融資の効率性や企業パフォーマンスに及ぼす影響について、実証的に検証することである。平成27年度については、第1に、分析に用いるデータベースの整備に注力した。民間信用調査会社「東京商工リサーチ(TSR)」のデータベース、日本経済新聞社デジタルメディア局「Nikkei NEEDs-FinancialQUEST」を用いて、非上場企業約2~3万社・上場企業約3500社について、それぞれ株主属性、企業属性、企業財務が把握できるパネル・データベース(2003~2013年)を構築した。とくに非上場企業の株主属性に関しては、TSRデータベース所収の文字情報を丁寧にデータクリーニングし、さらに銀行財務情報とマッチングできるよう金融機関コードとの紐付けを行った。管見の限りでは、銀行に着目して非上場企業の株主属性を明らかにしたデータベースは存在せず、新規性が高いものと思われる。第2に、銀行株主をもつ企業の特性を把握するとともに、設定した分析仮説の妥当性を検証するため、一橋大学商学研究科での研究セミナーにて中間的な研究報告を行い、データベース、分析仮説の更なる改善に資するコメントを多数もらった。また、研究成果の一部をベースに、商業誌『月間金融ジャーナル』への寄稿を行った。第3に、従来から取り組んできた他の研究論文2本の作成・投稿作業を行った。これらはともに企業・銀行間の融資関係に関する実証研究であり、本研究のテーマと直接関係するものではないが、本研究を遂行するうえで有益な知見が得られたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、(1)企業・株主関係のマッチデータの構築、(2)データの基礎的な整理、(3)銀行、銀行系VC、非銀行系VCを株主とする企業の比較を通じた理論仮説の妥当性についての第一次な検証、(4)セミナー・研究会等における発表を通じた分析の方向性についての検証、を行うことを計画していた。「9. 研究実績の概要」に記したとおり、(1)~(4)は、いずれも順調に進展している。
(1)前年度に構築した上場企業・非上場企業の個票パネルデータに、株式を保有している銀行、融資関係を有する銀行の財務データや取引関係に関するデータ(融資シェア等)を接合し、企業・銀行マッチデータを構築する。そのうえで、(2)銀行株主有無ダミーを被説明変数、企業の基本的な属性、メインバンクの基本的な属性を説明変数とする回帰分析を改めて行う。さらに、追加的な分析として、(3)銀行による企業株式の取得・売却が融資関係の維持確率に及ぼす影響についての回帰分析、(4)銀行による企業株式の取得・売却が企業の資金調達コスト、資金アベイラビリティに及ぼす影響についての回帰分析、をそれぞれ行う。(2)~(4)の分析を通じて、銀行による企業の株式保有について、銀行・企業双方の動機が明らかになると考えられる。
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Hitotsubashi University Real Estate Markets, Financial Crisis, and Economic Growth: An Integrated Economic Approach Working Paper Series
巻: No. 40 ページ: 1-37
Bank of Japan Working Paper
巻: No.16-E-2 ページ: 1-43
月刊金融ジャーナル
巻: 1月号 ページ: 72-73