研究実績の概要 |
従来、土壌からの亜硝酸イオン(NO2-)の回収には、pHを調整したKCl溶液を用いる必要があることが指摘されている(Stevens and Laughlin, 1995)。ところが、近年あらたに、これまでのKClによる抽出はNO2-濃度を過小評価しており、水による抽出が少量の土壌からのNO2-の回収と測定に適するとの報告がなされた(Homyak et al., 2015)。これを受け、当初予定を変更し、森林表層土壌からの無機・有機態窒素(NO2-・NO3-・NH4+・溶存有機態窒素)の抽出溶媒と抽出時間の再検討を行った。抽出溶媒には水とKCl(pH調整あり・なしの2種)を用い、抽出は10, 30, 60分間行った。また、窒素安定同位体でラベルされたNO2-を抽出溶媒に添加することで抽出中のNO2-の生成と消費について評価した。 抽出液中のNO2-濃度は水、pH調整済みKCl、KClの順に低下し、Homyakらの報告と矛盾しなかった。また、添加15NO2-の回収率は10分間の抽出では溶媒間で大きな差異が見られなかった。これらの結果は、NO2-測定において水抽出が有用であることを支持した。一方で、試供土壌を15NO2-を添加した水溶液で抽出した場合、抽出時間に依存したNO2-濃度の増加と同位体比の減少が見られたが、オートクレーブで滅菌処理を行った土壌を試料とした場合、濃度と同位体比の変化が見られなかった。このことから、水抽出の操作中に生物的なNO2-の生成と消費が同時に生じることが示された。速度論的な解析から、抽出操作中のNO2-プールの滞留時間は非常に短く、土壌中に元々存在するNO2-の回収は困難であると考えられた。KClを用いた場合、抽出中のNO2-生成速度はより小さいことが事前の研究で明らかになっており、低濃度のNO2-分析ではKCl抽出を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に実施を予定していた、含水率を変化させた土壌培養実験に着手する。東京大学千葉演習林にて試料の採取を8月に行うことを予定している。全長100mの斜面プロットにおいて、斜面の上部、中部・下部に分け、それぞれから表層土壌(0-10cm)を採取し、培養実験の試料とする。8-11月にかけて培養実験を行い、2週間ごとに15NO2-添加実験と土壌理化学性・遺伝子解析のための試料の回収を行う。土壌化学分析は培養実験と並行して行い、硝化微生物(AOA, AOB, NOB)の硝化反応を触媒する酵素遺伝子の定量を培養実験終了後に行う。12-3月にかけて、データの取りまとめを行う。
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