研究課題/領域番号 |
15H06627
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
横山 奨 東海大学, 社会連携イノベーションセンター, 研究員 (30760425)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | Traction force / TFM / Wrinkle / Contractile force / Drug efficacy evaluation |
研究実績の概要 |
超薄膜を応用した細胞トラクションフォース評価法の開発を行い、従来法よりも優れたスクリーニング手法を提供することを目指し研究を実施した。 柔軟な基板の上に、基板よりも硬いナノオーダ膜厚を有する超薄膜を成膜した機能性基板を作製する。この機能性基板の上で細胞を培養すると、細胞のトラクションフォースにより超薄膜に表面座屈が生じる。この表面座屈による”シワ”を位相差顕微鏡などで容易に光学観察が可能である。超薄膜上に発生する”シワ”は、トラクションフォースの直行方向に生じることを確認してた。一方、力の大きさの算出には、膜厚の正確な制御と物理特性の把握が必要不可欠である。柔軟な基板として、シリコーンゴム材料の一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を架橋剤との混合比を調節して用いた。基板よりも硬いナノオーダ膜厚を有する超薄膜は、ECRスパッタリング法を用いて、ナノオーダの金超薄膜を成膜した。ECRスパッタリング法を用いることにより、膜厚を正確に制御することが可能となった。 ラット大動脈平滑筋(A7r5)細胞を金超薄膜上に播種し、培養1日後に観察すると金超薄膜に”シワ”が発生する。その後、トリプシン処理を行い、細胞を剥離すると金超薄膜に発生していた”シワ”が消失した。一連の過程により、金超薄膜に発生していた”シワ”が細胞のトラクションフォースに起因することが確認された。 膜厚が既知のトラクションフォース評価用金超薄膜の成膜に成功したため、トラクションフォースの定量的評価に向けた初期検討を実施した。数値解析ソフトを用いたシミュレーションを実施し、金超薄膜へ表面座屈を生じさせるために必要な力の大きさを検討した。 2015年9月13日~9月16日には日本機械学会 2015年度年次大会に参加し、本研究に関する成果を報告するとともに情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、主に(I)超薄膜の細胞親和性・物理特性の評価および細胞トラクションフォース評価用超薄膜成膜法の確立、(II)細胞トラクションフォースにより発生した“シワ”形状観察からの力の評価法の検討を行った。 (I)では細胞トラクションフォース評価用の超薄膜の安定的な作製法について研究を進めた。細胞トラクションフォースを評価するためには、細胞が超薄膜上でストレスなく培養されることが必要不可欠である。本研究で開発するトラクションフォース評価法の感度を向上させるには、可能な限り薄い超薄膜が望ましい。一方、実験中の培地交換などを考慮すると、外的刺激に対しては十分な耐久性を持たねばならず、必要以上に膜厚を薄くすることは実用的ではない。複数の成膜法による超薄膜を検討した結果、ECRスパッタ法を用いて透過性と細胞親和性の有する金超薄膜を成膜することに成功した。 また、適切な膜厚設計を調査するとともに、柔軟なPDMS基板上への安定的な成膜法を確立した。通常のECRスパッタ法では、僅かながらもスパッタ中に熱が発生し、成膜後にPDMS基板が冷却・収縮することにより金超薄膜に亀裂が発生してしまう。スパッタリング条件を詳細に検討し、短時間のスパッタリングを繰り返し基板への加熱を最小限に抑えることで、柔軟なPDMS基板上へ平滑な金超薄膜を成膜可能であることを確認した。 (II)では、表面に発生する“シワ”の波長と表面座屈に寄与した応力の相関性を応用したヤング率測定技術(SIEBIMM)の応用検討を行った。(I)で得られた物性値を元に、具体的なトラクションフォースの算出を行うための初期検討として数値解析ソフトを用いたシミュレーションの準備を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、主に(I)超薄膜を利用したトラクションフォースの定量化、(II)細胞トラクションフォースの定量化を利用した薬効評価、に取り組む。前年度までの研究により、ECRスパッタ法によるナノオーダ膜厚の金超薄膜を用いたトラクションフォース測定用基板の開発に成功している。これは、従来の酸素プラズマ照射によって成膜された酸化被膜と異なり、膜厚の正確な制御が可能な点で大きな進展と言える。ただし、前年度の研究過程においては、金超薄膜の膜厚に関してのパラメータ検討が不十分だったため、(I)の課題に取り組みつつ、並行して超薄膜成膜法の確立を目指す。ECRスパッタ法を用いた金超薄膜の成膜に関しては、東海大学槌谷和義教授の協力の下、適切な成膜条件の絞り込みを進める予定である。 (I)超薄膜を利用したトラクションフォースの定量化では、膜表面に発生する“シワ”の波長と表面座屈に 寄与した応力の相関性を応用したヤング率測定技術(SIEBIMM)のトラクションフォース定量化への応用を行う。膜厚の正確な制御が可能になったため、SIEBIMMに必要なパラメータ(超薄膜の膜厚およびヤング率)の特定が可能となった。金超薄膜の膜厚をレーザー顕微鏡(あるいはXPS)を用いて、正確に測定する。トラクションフォース定量化の第一段階として、単一細胞でのトラクションフォース定量化を実施し、他トラクションフォース定量化手法を用いた先行研究の値との比較検討を行う。細胞群への応用を行うとともに、細胞用マイクロパターニング技術との組み合わせによる細胞競合時のトラクションフォース評価を目指す。 その後、(II)細胞トラクションフォースの定量化を利用した薬効評価を実施し、細胞活性のトラクションフォースを用いた定量化や、薬効評価への応用を目指す。
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