平成28年度は27年度に引き続き、主に鴎外の受容した国内外の19世紀末の知的ネットワークの整理を行い、その上でこれまで研究者が行ってきた歴史叙述に関する研究との関連性を考察した。特に、本年度は以下の点に焦点を当て、調査を進めた。 第一に、鴎外が手引きとした自然科学、人文科学の概説書の収集・分析を行った。前年度からの調査により、鴎外の知識の吸収の方法として、手引きとなる概説書を用い、その上で自身の関心を深めていくという方法に特徴があるという結論にたどり着いた。そのため、そうした概説書をベルリン・ミュンヘンでの実地調査によって収集するとともに、翻訳書を参考にしつつ読み込むことで、鴎外の知のあり方を考察した。第二に、ドイツの文化史家たち、特にグスタフ・フライタークの生涯・作品について調査を行った。鴎外の歴史叙述を考える上で、ドイツの文化史家たちから受けた影響は改めて考察しなければならない問題ではないかと考えるに至った。そこで、鴎外がベルリン留学時代に入手したとされるフライターク「先祖録」を中心に、フライターク作品の分析をおこなった。日本ではあまり紹介されておらず、翻訳書も少ないため、今後も少しずつ進展させていく予定である。第三に、明治末期の日本におけるドイツプロテスタントの影響についても調査を行った。この観点は、2年間の調査の中で新たに見つけた問題意識であるため、引き続き考察を深める予定である。なお、特に第三の観点については、平成29年3月に研究発表を行う機会を得、様々な助言を受けることができた。
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