研究課題/領域番号 |
15H06635
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
加瀬 竜太郎 東京理科大学, 理学部, 助教 (10756406)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 修正重力理論 |
研究実績の概要 |
1998年に発見された宇宙の後期加速膨張を説明する試みの一つとして,現在までに修正重力理論に基づく暗黒エネルギー模型が数多く提唱されてきた.そのほとんどは重力理論の変更に寄与するスカラー場が重力場と結合したスカラー・テンソル理論であり,運動方程式を二次のオーダーに保つ一般的な理論であるホルンデスキー理論に内包される.今までのところ,このホルンデスキー理論の枠内において,理論的に安定であり現在ある全ての観測データと整合性のある模型は見つかっていない.近年,ホルンデスキー理論を更に拡張したGLPV理論が提唱された.この新たな理論はホルンデスキー理論よりも多くの自由度を含み,この理論を用いることで観測とより整合性のある模型を構築できる可能性がある.しかし,このGLPV理論に関してはまだまだ不明な点が多く,大スケール・小スケール双方から理論の妥当性を検証する必要がある.そこで研究代表者は,以下の研究を行った. 1)GLPV理論に基づいた暗黒エネルギー模型の構築 研究代表者はGLPV理論のサブクラスにおいて,小スケールでの局所重力実験と無矛盾な暗黒エネルギー模型の構築を行い,その宇宙論的背景時空(大スケール)での振る舞いに関して詳細な解析を行った.その結果,ホルンデスキー理論からのズレは背景時空では影響を及ぼさないが摂動一次のレベルで一部の摂動量に微小な振動モードを引き起こすことを明らかにした. 2)GLPV理論におけるconical singularityと第五の力の遮蔽機構 研究代表者は球体小時空の詳細な解析から,GLPV理論では原点においてconical singularityが生じ,曲率の発散が起こりうることを示した.更に,このような不安定性が生じないための一般的な条件を明らかにし,この条件が満たされている場合は遮蔽機構が正常に働き,局所重力実験の制限を満たしうることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要において説明した二つの論文は,それぞれPhysical Revies D誌とJournal of Cosmology and Astroparticle Physics誌に掲載された. また,これ以外にもベクトル・テンソル理論という,重力理論の修正に寄与するベクトル場が重力場と結合した理論に属する一般されたプロカ理論のサブクラスに関して,静的球対称時空(小スケール)における遮蔽機構の研究,及び宇宙論的背景時空(大スケール)における理論の安定性についての研究を行った.これらは現在査読付き論文誌に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
1) 完全なGLPVラグランジアンを用いた暗黒エネルギー模型の構築 昨年度,研究代表者はGLPV理論のサブクラスに基づいた暗黒エネルギー模型の構築を行った.しかし,GLPV理論にはこの研究で用いたもの以外にも,もう一つ相互作用ラグランジアンが存在する.この新たな相互作用ラグランジアンに関しては,すで静的球対称時空での解析からconical singularityが出現しない条件,及び第五の力の遮蔽機構が働き局所重力実験の制限を満たすために必要な条件を明らかにした.よって,今後はGLPV理論に基づいた全てのラグランジアンを用い,conical singularityが現れず第五の力の遮蔽機構が働く整合的な暗黒エネルギー模型の構築を行い,宇宙論的摂動論を用いて詳細な解析を行う.特に大スケールでの可観測量に関して,ホルンデスキー理論からのズレがどのような影響を与えるのかを議論する. 2) 一般化されたプロカ理論における密度揺らぎの発展 昨年度の研究を発展させ, 一般化されたプロカ理論に基づく理論的安定性を満たす模型の構築を行い,大スケールでの密度揺らぎがどのように発展するかを調べていく.特に,密度揺らぎの成長率に起因する赤方偏移空間歪みに関する最新の観測結果は,一般相対論に基づいた模型が予言する密度揺らぎの成長率よりも小さい値を好む傾向を示している.修正重力理論に基づいた模型では,一般的に実効的な重力定数が時間変化するため,これがニュートンの重力定数を下回れば密度揺らぎの成長率を抑制することが可能であるが,スカラー・テンソル理論においてはそのような場合,一般的に理論は不安定になることが知られている.よって,ベクトル・テンソル理論である一般化されたプロカ理論において理論的な安定性を満たし同時に密度揺らぎの成長率を小さくすることが可能であるか否かの検証に重点を置いて研究を推進する.
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