本年度はベクトル場と重力場が結合したベクトル・テンソル理論に関して,小スケールと大スケールの双方から多角的に検証を行った. まず,ベクトル・テンソル理論に属する多くの模型を包括する一般化プロカ理論についての小スケールでの検証として,局所領域における第五の力の伝搬に関する研究を行った.太陽系での局所重力実験の結果から,このような領域においては一般相対論が精度良く成り立っていることが実験的に分かっており,修正重力理論に一般的に現れる第五の力の伝搬は非常に強く制限される.研究代表者は,一般化プロカ理論の場合には場の非線形な相互作用項の効果によって第五の力の遮蔽機構が働くことで,局所重力実験からの制限を自然に満たすことを明らかにした. また,同理論の大スケールでの検証として宇宙論的摂動論を用いた理論の安定性の解析を行い,一般化プロカ理論に属する具体的な模型に関して宇宙の発展史の中で常に理論的安定性を満たすようなパラメータ領域を明らかにした.これに加え,宇宙の大規模構造に関連する物質揺らぎの成長率に関する研究を行い,このような理論模型が理論的安定性を満たした上で大スケールにおいて弱重力を実現することが可能であり,結果として物質揺らぎの成長率が抑えられ低赤方偏移における観測結果を説明しうることを明らかにした. 更に研究代表者は一般化プロカ理論の拡張理論の構築を行った.スカラー・テンソル理論に属する多くの模型を包括するホルンデスキ理論においては,これと同様の手法で理論を拡張すると恒星等の球対称時空の原点で曲率が発散する問題が生じる場合がある.一方,一般化プロカ理論の拡張理論においては,ベクトル場固有の自由度の存在によりこのような発散が一般的に起こらないことを示した.また,同拡張理論においては一般化プロカ理論よりも更に物質揺らぎの成長率を抑えることが可能であり,観測と整合的である.
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