本研究は、ゲノムDNAの複製開始機構とゲノム安定性維持機構の再複製時における連携の機序を明らかとすることを目的とした。研究代表者の研究グループはこれまでに、アフリカツメガエル卵抽出液においてDNA複製ライセンス化因子であるCdt1が過剰に存在すると、DNAの再複製が誘起される一方でDNA合成反応の抑制が引き起こされることを見出している。研究代表者は前年度までに、Cdt1が再複製の開始に非依存的に複製フォークの進行を阻害することで新生鎖伸長反応を抑制することを見出した。本年度では、複製フォークの進行停止に関わるCdt1の機能領域の同定を目指し、種々の欠失変異体タンパク質を作製し、アフリカツメガエル卵抽出液へ添加したときのDNA複製への影響について検討した。その結果、Cdt1の255-289アミノ酸領域が複製フォーク停止に重要な役割を果たしていることを明らかとした。さらに、ライセンス化活性を示さないアミノ酸置換変異体(R285A)においても野生型と同等の複製阻害活性を示すことを見出した。また、Cdt1の阻害因子であるGemininが、Cdt1による複製フォークの停止を解除するのに必要な機能領域の同定をおこなった。培養細胞を用いた解析では、再複製誘発時に機能するゲノム安定性維持機構の同定を目的として、ニワトリDT40細胞でCdt1発現誘導株の樹立をおこなった。まず、野生型DT40細胞を用いてCdt1発現誘導株を作製した。作製した細胞株にCdt1を強制発現したところ、顕著な再複製の誘導が確認された。現在、ゲノム安定性維持に関与する遺伝子を破壊した種々のDT40細胞株を用いてCdt1発現誘導株の作製を進めている。また、Cdt1過剰発現による複製阻害効果を培養細胞でも確認するため、DT40細胞とヒト細胞を用いて、種々のCdt1変異体誘導発現株の作製を進めている。
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